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無題
「お兄さんは何で死にたいの?」
ナイフを片手にそう言った男は、どこも見ていなかった。
幼児用のヘアゴムで短い髪をツインテールにした、痩せ型の成人男性...本来なら死刑になるべきこの男の世話を、何故か俺がする事になった。
「... 俺は、」
そこまで言いかけて、言葉を飲んだ。別に理由なんかない。ただ漠然と死にたいだけなのだ。屋上のフェンスの上をヒョコヒョコと歩く男は呑気に鼻歌なんぞを歌っており、俺はますます自分を惨めに感じた。
「まぁ、いいや。死ぬまでに聞かせてよ」
そう言って笑う男の手から、ナイフが滑り落ちた。
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