俺の名は。

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俺の名は。

 「変な名前」とよく笑われたものだ。 池谷(いけがや)・グリュック・要太(ようた)。 それが俺の名前だ。  父親は日本人だが、母親がドイツ人なのだ。出会いのきっかけ諸々は知らない。ていうか、知りたくもない。  「おーい要太ぁ!ボール行くぞぉ!!」 「お?おー、ばっちこーーい」 今日は朝から、親友の水谷とキャッチボールである。なんでも、今度の野球大会に参加するらしい。  「俺がいれば大丈夫だ!とチームメイトに安心してもらう為に、オレは頑張らにゃならんのよ!」 「... さよーですか」 だからってなんで、俺を呼び出した。俺は運動が不得手だというのに...。物凄い勢いで投げられたボールをキャッチして、水谷に投げ返す。 「ていうかさぁ!要太も来いよ!野球大会!楽しいぜ!?」 「あー?......やだ」 少し間をおいてそう返すと、水谷は首を傾げて「なぁんでぇ〜!?」と叫んだ。  「...なんでって......」 水谷が知らないのも、無理はない。俺たちは同じ学校に通ってはいるが、クラスが違うのだ。 「...俺、嫌われてるから!」 「はぁ〜!?なんだってぇ〜!?」  絶対、聞こえているくせに。 叫びながら投げられたボールをキャッチして、手の中で転がした。 「だぁからぁ!俺!嫌われてるの!!」 「嫌われてるのぉ!?誰にぃ!?」 「クラスの奴らぁ!!俺がハーフだし不良だからぁ!!!」 口にすると惨めなものである。半ば八つ当たりするように水谷にボールを投げると、水谷は難なくキャッチした。そして手の中でコロコロと転がし、また首を傾げた。  「そんなんでお前を嫌うような奴ら!ほっとけばぁ!?」 「あ〜!?」 「だってお前がハーフなのも、不良なのも、足が臭いのも仕方ねぇじゃん!!」 「誰も足が臭いとか言ってねぇよ!!!!」 つーか俺、足臭いのか。新事実に呆然としていると、水谷は怒ったように叫んだ。 「ハーフじゃなくて不良でもなくて!足からアロマみてぇな匂いがするお前なんかお前じゃねぇよ!!グリセリン!!!」 その言葉を聞いて、胸の中に風が吹いた。 あぁ、そっか。俺は、こうだから俺なのか。 ハーフで、不良で、足臭いから俺なのか。 ...いや、俺の足は臭くない。 「...グリュックだっつーの!!!バカ慎悟(しんご)!!!」  『どこに行っても、誰といても、幸せでありますように』 そう願った親がつけたくれた名前を、少しだけ誇りに思った。
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