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バカも程々に
「おい!もうすぐ晴れるぜ!!!!」
「晴れねぇから早くそれ持ってけ」
足場の上で某映画の真似をする後輩を叱り、俺は足元に置いたままだった工具を回収した。
本当にこいつは、高校の頃から馬鹿しかやらねぇ。「バイクの免許を取った!」と学校にバイクで登校して免許を取り上げられ、フルーツの香りがする制汗剤を口に入れて「フルーツの味しねぇじゃん!」と騒いだり......。
「お前ほんと昔から馬鹿だよな」
「え?なんか言った??」
「なんでもねぇよタコ。おら帰るぞ」
まだ空に向かって手を合わせている馬鹿にそう言いながら、一向に晴れる気配のない空にため息をついた。
「お前ら2人直帰な」
「...は????」
地上に戻った俺達に、現場監督がそう言った。思わず礼儀のなってない聞き返し方をすると、現場監督は呆れた顔をして俺たちを見た。
「お前らの報告書、字が汚くて読めないんだよ。だからお前らは直帰な」
「...分かりました」
"お前ら"と言われているが、いつも報告書を書いているのは、俺の横で鼻をほじっている馬鹿である。
「じゃ、俺達まだ仕事だから。お前ら明日も朝イチでよろしくな〜」
「...はい、お疲れ様です」
こちらを見ず、追い払うように手を振った現場監督に心の中で舌打ちをして、俺は馬鹿の手を掴んで歩き出した。
プライベートと仕事兼用の商用車に乗って、帰路につく。助手席の馬鹿は窓を開けて煙草をふかし、冷たい雨風が車内の温度を下げている。
「おい窓しめろや。さみぃ」
「ん?あぁ、ごめん」
注意すれば、アッサリと窓は閉められた。小さな機械音と共に、雨風が遮られる。途端に車内が煙たくなり、悪趣味な南国フルーツの香りに咳込んだ。
「...風邪?」
「お前のせいだっつーの!」
「...香水のせい?」
「流行りに乗るな!!!」
大して面白くない馬鹿の言葉を聞いて、俺は感情に任せてクラクションを鳴らした。
高速に乗って渋滞にはまり、俺のイライラはピークに達した。
「だぁあっ!クソッッ!なんで渋滞してンだよ!」
窓を叩く雨の強さは弱まらず、寧ろ段々と強くなっていく。助手席の馬鹿は煙草を吸い終わり、窓の外を見ながら手をモゾモゾと動かしている。
窓の外に見えるのは、他の車のライトと道路沿いに建った建物の明かりだ。
「...なぁ。あの建物、何?」
「あぁ?」
言われて、馬鹿の指差した先を見て、俺は「はぁ〜あ、」とため息をついた。
「お前、マジで言ってる?あれ"ラブホ"だよ。"ラブホ"」
「ラブホ?あれがラブホ?へぇ〜、趣味悪いな」
「...お前、この年齢までラブホ見た事なかったンか?」
「あるよ?あるけどさぁ...改めて見てみると趣味悪くね?」
「......はぁ?」
突然、何を言い出すんだ。言われて窓の外を見ると、そこには確かに趣味の悪い外観をしたホテルが、アホのように並んで建っている。
「......行ってみねぇ?」
「.........は???」
「だから、ラブホ。行ってみねぇ?中もあぁなってンのかな」
「...お前、バカにも程があるぞ」
まさか、昼飯の弁当に変な薬でも入っていたのか。
キラキラと目を輝かせる馬鹿にため息をつきながらも、俺は気が付けば高速を降りていた。
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