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見猿/言猿/聞猿
見猿は目元のピアスを指先で弄りながら、アジトである廃ビルの屋上で遠くを眺めていた。
「......。」
"見猿"という異名を持つとはいえ、見える以上は見てしまう。それは血の繋がらない兄弟の小競り合いだったり、他のチームの奴等の醜態だったりする。
鈍色の空を見上げながら風の音に耳を澄まし、異名に反さないようゆっくり目を閉じた...その瞬間。
「......なんだよ、」
屋上のすぐ下からの階から、ガッシャアアアン!!!と凄まじい音がした。
言猿はいつものソファに座りながら、ぼんやりと遠くを見ていた。
(...明日は雨かな)
男にしては長過ぎる黒髪を指先で梳いて、小さくため息をつく。雨が降ると髪がベタベタして嫌なのだ。
「......。」
する、と指先から抜けていく髪の感触に目を細め、今夜は何を食べようか静かに考えた...その瞬間。
「......こえぇよ」
勢いよく窓ガラスを割って、兄弟最年長の聞猿がアジトに飛び込んできた。
聞猿がアジトに飛び込むと同時、招かれざる客までアジトに入ってきた。
「ぉい待てやゴラァッ!!」
「逃げんじゃねぇぞ猿ゴラァッ!!」
それは敵対するチームの奴等だった。元々喧嘩を好まない性格の聞猿の事だ。説得をしながらここまで逃げてきたのだろう。
「...助けろ言猿。こいつら嫌だ」
「嫌だじゃないよ...つーか窓どーすんの」
「...それは、謝る」
大きな図体で「すまん」と謝る聞猿。そのアンバランスさに言猿は微笑み、自分よりずっと高い位置にある聞猿の頭をヨシヨシと撫でた。
「とにかく!今日はてめぇら殺すからなァ!!覚悟しとけよこの猿共が!!」
「そーだぞてめぇら!ぶっ殺したるからな"っっっ!!??」
「...あ~ぁ、」
メシャッと嫌な音を立てて、1人の顔が歪んだ。その様子を見ていた言猿は嬉しそうに口角を上げ、顔を歪められた男の背後に視線を動かす。
「...ダメじゃん、見猿。正面からやらないと」
「......聞こえねぇな。そんな説教」
「いや、聞こえてるじゃん」
ふふ、と言猿が微笑む。見猿は痛むんだろう足を擦りながら、靴の爪先を直した。
「......で?どうすんの?お前も蹴られたい?」
「ぐ......っ、」
見猿の質問に、男が後ずさる。平気で人を背後から襲う癖に、とりあえず「どうする?」と聞いてくれる優しさはあるらしい。
「......まぁ、聞かねぇんだけどね?」
「はは、」と乾いた笑いを漏らした見猿の蹴りが、哀れな男の顔にヒットした。
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