看守ソイン(執着)

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それは感じたことの無い不快感。 村の入口で捕まえた人間の男を牢にいれ、見回りでその牢を見れば囚人同士で交尾していた。 別にこの牢の中では珍しくもないことのはずなのに―… なのに何だこの自分のお気に入りの玩具(おもちゃ)を他の獣人に(うば)われたような喪失感は。 囚人たちを引き離すと俺は人間を連れ帰り苦痛に(ゆが)む顔でも見れば気が晴れるだろうと思っていた。 どんな囚人もソインにかかれば従順になり逆らわなくなるというのに この人間は自分の身の心配よりも交尾していた囚人を殺すなと必死に頼んできたのだった。 痛めつけようが快感をあたえようが俺に見向きもしないで同じ言葉を口にする人間にムカムカと苛立(いらだ)ちはつのりソインは自分でも分からぬ感情を持てあましていた。 今は目を閉じて眠っている男の髪を()でれば懐かしいような触りごこちに手が止まり目を開けた男がまたあの囚人の名前を口にするだろうと思うと忌々しくて「分かったから黙れ」とソインは言っていた。 ひび割れた唇が目について水を口に含み飲ませてやれば素直に飲みこみその瞳がやっとソインを映したとき強い感情に動かされてそのまま暗示をかけていた。 俺の姿がお前が助けたがった獣人に見えるように。 それでも完全に暗示がかからない人間は夜に泣きながら目覚めることがあるが俺がキスして抱きしめていると落ち着きを取りもどすようになり涙にぬれた目が俺を映すと暗示をかけた日の事を思い出す ―――お前は俺だけを見ていればいい、と。 了
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