ほえる、ほえる。

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 間違いなく、零感。ついでに誰にでも懐いてしまうので、番犬にも全く適していない呑気な犬だった。役に立つとは到底思えないのだけれど。 「この病院が移転した理由、僕知ってるよ」  エイジがにやり、と笑ってくいくいと眼鏡を押し上げた。 「こんなに交通の便が良い場所に立ってるのに、どんどん経営状態が悪くなってったからなんだってさ。その原因は……ここに入院してた患者にあるんだって。ここで僕達くらいの年の男の子が一人死んでるらしいよ!」 「ありがちだな。つか、病院なんだから誰か死んでても全然おかしくないと思うけど」 「そうじゃないって!自殺だよ自殺!首吊って死んでたって話!そのせいで縁起悪くなっちゃって人が寄り付かなくなっちゃったから、場所を移転して再出発しようってことになったんだってー!」 「えー……」  そんな話、聞いたこともない。どうせ誰かのでっちあげだろう。ソースはどこよ、とエイジに尋ねると、某大型掲示板の名前が上がった。胡散臭さMAXだ。きっとおもしろがった誰かの作り話だろう。病院も気の毒なことである。  僕達は“侵入禁止”と書かれたチェーンを悠々乗り越えると、ガラスが外されてスカスカになったエントランスを潜った。当然、電気などつくはずもない。懐中電灯で辺りを照らし、あちこち飛び散っているガラスの破片や石ころなどを避けつつ、僕らは受付の奥へと進んでいく。  ちなみにプリンは、あちこち転がっているものに興味があるようで、時折突然立ち止まっては周囲の臭いを嗅いでいた。何か妙なものが落ちているかもしれない。僕は既にプリンを連れてきたことを後悔し始めていた。犬というものは、道端に落ちているものも結構平気で拾い食いしてしまうものだ。阻止したくても、大型犬のプリンを抱き上げるだけの力が僕にはない。腐った食べ物とか落ちてないといいんだけど、と段々探検もそっちのけでハラハラし始める僕である。  特に面白いものも何もない白い廊下を進むと、目の前に階段が現れた。二階に行くか、地階へ降りるか。すっかり冒険者気取りになっているやっくんはペコすけと肩を組んで、下へ行くにきまってんべー!と騒いだ。 「自殺した奴の病室は上だから二階も気になるんだけどな!やっぱ地下だろ地下!遺体の霊安室があるのは地下って相場が決まってるしな!」  こいつ、そのうち祟られるんじゃないだろうか。僕は段々やっくんが心配になってきた。  一緒になって探検を続けている時点で、僕も同罪と言えば同罪なのだけれど。
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