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落ち着きを取り戻した後、事情を話すことができました。すると、義治さんが思ってもみなかった言葉を口にするのです。
「すまん、知ってた」
一瞬、頭が真っ白になって、まだ酔いが覚めていないのかと思って、頬を思い切り抓ったけど千切れるんじゃないと思うくらい痛かったです。
「いや、以前会った紫央の友人達が道場に来たんだ」
なんてことでしょう。義治さんに迷惑をかけたに違いないです。そう思って、すみませんと謝ったがどうも訳が違うらしいのです。
どうやら義治さんが言うには、今日の花火大会までの時間稼ぎを悪友三人が買って出たらしいのです。
三人曰く。
「紫央ちゃんは、お酒にとっても弱いので、強ーいお酒を飲ませたら一発で沈みます。ピッタリ三時間は起きません。次に、起きたら一度目はピッタリ一時間暴れます。そして、疲れたらまた眠ります。これもピッタリ一時間です。その次は酔いが覚めているように見えますが、やっぱりピッタリ一時間泣き通します。そのあとは、スッカリ元通りなんです」
そういうことらしい。私の酒癖をそこまで熟知しておいて、彼女達が何がしたかったのだろうか検討がつきません。友人達の言うとおり、スッカリ元通りになった私は意味が分からず、首を傾げました。
すると、義治さんはフッと笑うのです。
「それで、いつも忙しそうにする紫央を労りたいということらしい」
またしても意味がわからず、私は呆然としてしまいました。義治さんは、私の腫れた目元を、優しく触れて続けます。
「紫央は、どうあっても良い嫁になろうとするだろうと言っていた。たまには、何もしない日を作っても良いと伝言を預かった。私もそう思う。紫央とは、何があっても別れる気はない。安心して休んでくれ」
なんてことでしょうか。また涙が零れそうです。泣き笑う私を義治さんは、抱きしめてくれました。
そのあと、二人で浴衣に着替えて悪友が予約を取っておいたという、夜景の見えるレストランに二人で出掛けました。
「それにしても、どうして今日なんでしょうね」
レストランへの道中、義治さんへ何気なく聞きました。特に、理由は無かったのですが、義治さんは、とても言い難そうです。
私がその理由を知るのは、義治さんが眉間にシワを寄せてから五分後のことだった。
『義治さん、良いですか? この作戦は紫央ちゃんのためでもありますけど、義治さんのためでもあるんですよ。義治さん、愛してるとか好きとかあんまり紫央ちゃんに言ってなさそうですもん。そうでしょう? 私達の目は誤魔化せませんよ。紫央ちゃんだって女の子ですから、言葉にしないと不安になりますよ。良いですか。今日を逃せば、また来年しかないですよ。なんてたって今日は……』
教えて貰ったあと、三人の仕業であろう玄関の花瓶に生けられていた赤い薔薇の花束を思い出しました。あれは、そういう意味だったのかと久しぶりに、友達へ感謝をした8月31日でした。
薔薇の花言葉…あなたを愛してます
8月31日…アイラブユーの日
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