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 路地へと続く左の道を選ぶ。そこで犬と遭遇。大量出血により意識を失う。約束の時間には間に合わなかった。  なんて事が起きるかもしれない。  今の時間帯。犬の散歩をするには絶好のタイミングだ。この辺で犬の散歩をするにはあの路地が適している。車も人も少ない。放し飼いでのびのびと育てたい主義の飼い主に遭遇しないとは言い切れない。  少しでも不安が残る道は選べない。左の横道は選べない。  来た道を戻るとタクシーの駐車場がある。しかしそこに行くまでに五分はかかってしまう。戻るなんて選択肢はない。ひたすら前に進むしかない、圭介はそう意気込む。もちろん諦めるなんて道もない。  すると残る道は一つしかない。右の横道。そこから続く右側の路地は左側の路地と同じく交通量が少ない。人通りは少し多いけど歩道は細い。犬との素敵な出会いはないだろう。不安が残るとしたら右の路地は少しだけ大回りに駅に向かっている。たぶん正面と左の道と比べたら二、三分遅くなるだろう。  しかし、と思う。  顔を上げ右の横道に視線を向けた。そこには一台の自転車が置いてある。カゴには黄色の紙が貼ってある。あれは駐輪禁止の印だ。それはボロボロに破れかけ、所々に鳥の白いフンがへばりついてある。長期間放置されていたのだとすぐにわかった。少しの間だけ借りても誰からも何も言われないだろう。  あの自転車を使い右の路地に続く横道を走る。自転車は車道を走らなければいけない。それはつまり人混みを避けながら細い歩道を歩かずに、車がほとんど走っていない車道でペダルを全力で漕げるということだ。歩きでギリギリ間に合わない距離だ。しかし自転車なら飲み物を買う余裕だって生まれる。  圭介は覚悟を決め右の横道に顔を向けた。そこでハッとした。なんと自転車のタイヤと近くの柱はチェーンで結ばれていたのだ。  圭介は思わず舌打ちをする。  もしかしたら案外簡単に外せるかもしれない、なんて甘い考えが頭をよぎる。逆にどれだけ時間を要しても解けないかもしれない、そんな不安が襲ってくる。容易に確認しには行けない。もし自転車を使えないまま右の路地に入り込めば約束の時間には絶対に間に合わないだろう。自転車ありきで考えた右の横道だ。前提が崩れれば結果は自ずと変わってしまう。  選択肢がない。道はもう残されていない。  圭介は静かに目を閉じた。
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