「ピクニックに行きたかったの」

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「ピクニックに行きたかったの」

アタシはとっても運が悪いの。 だからこんな魔法を使うんだ。 誰かの幸せな運を奪う魔法を。 これは忘却の魔女と呼ばれる、とある不運な少女の話。 星が一筋流れていった。 誰かが言った。流星群は、この世界では「星の涙」と呼ばれるのだと。 今日は流転の日。 何かが始まる、何かが転がり始まる運命の日。 星の涙が滴った先の奇跡の花畑。その花畑に辿り着いた先が必ずしも幸福とは限らない。 星空を写したような花畑を目にすることができたなら、どれ程幸福だろうか。 多くの人々はそう思うのだろう。 幸福なのだろうか。 本当に、幸福なのであろうか。 ある年、幼い少女がたった1人で花畑を探しに出掛けた。その年の流転の日に奇跡の花が咲く場所を、自分だけの力で探し出すのだと張り切っていた。そして、流転の日には大好きな姉と一緒にピクニックに訪れるのだと。 去年星が降り注いだ場所はとある森であった。その森の名前を知る者であったら決して踏み入らない森であった。 その森の名前は 「忘却の森」 自分が誰であったかさえ忘れる、記憶を深くに沈める森である。 幼い少女は森へ入って行ってしまった。 彼女は、妹は、姉の元へと帰ることはなかった。2人はとてもとても仲のよい魔女の姉妹だったのに。姉が聞いた、妹としての最後の言葉は「お姉ちゃんとお花畑にピクニックに行くんだ」であったそうだ。笑って、妹は姉に言ったそうだ。 幼い少女は運が悪かった。たまたま偶然に忘却の森へと落ちた星たちを探しに行ってしまったのだ。 横暴で傲慢で我儘な魔女の名が忘却の森から聞こえ始めたのは、少女がいなくなってから数年後のことである。 少女が奇跡の花畑を探しに出掛けたことは、果たして幸福だったのであろうか。 それとも、不幸であったのだろうか。 それは、彼女本人にしかわからない。 これは幸運であり不運であった1人の魔女となる少女の話である。 今宵もまた、星が涙を一筋流した。 流れた涙は降り注いで奇跡の花畑を潤すことだろう。
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