『前書き』

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ある魔女の話をしましょう。 彼女は月の綺麗な夜に生まれました。魔女というには少々元気が有り余っているような、よく笑う女の子でした。 彼女は動物のぬいぐるみが大好きでした。ぬいぐるみたちに囲まれていれば、優しい気持ちになれたからです。 彼女は動物が嫌いでした。生きる時間が自分より短い命は、当然自分より先に死んでいくのです。どれだけ愛しても、彼らは自分を置いていくのです。 彼女が独り立ちした日、隣には一匹の黒猫がいました。彼女が生まれた日からずっと一緒にいた「家族」でした。二人は支え、支えられ、互いを特別なパートナーだと信じていました。 「「あなたがいるからさみしくない」」 毎晩抱き合って暖をとり、母胎の中で漂っていた頃のように体を丸めて眠っていたのだと後に私に話してくださったのは、他でもない彼女自身であります。 ある時、遠い遠い町から若い魔女が彼女の元を訪ねました。 いいえ、彼女ではなく彼の元を、でしたね。 若い魔女はまだまだ幼く、世を知りませんでした。つまり、ワガママ。世界の中心が自分であり、自分はオヒメサマ。何でも叶えられ、自分が一番偉いのだと思っている 勘違いなお子ちゃまKY。アタシ可愛いから~とか言うブス。女の子になにさせるのとか言って何もしようとしない木偶の坊。 化粧が濃い。うちのお嬢様を見習え。 声がキーキー煩い。湖の人魚様の歌を聴け。 ワガママが過ぎる。人狼少女様のツンデレと比較に値しない。 私に猫撫で声で媚びを売るな。キモい。性別を見極める観察眼をまず身に付けろ。キモい。 失礼しました。一度見かけましたが二度と見たくない雌でしたね。 そんなガキがわざわざいらっしゃったのは、他でもない黒猫の為でした。魔女と黒猫は特別な契約や契りを交わした間ではありません。ただ、互いの側にいたいと思うからこそ隣にいるのです。 ガキはそんなことお構い無しに、「その猫ちょうだい」と黒猫の尻尾を今にも抜けそうな位強く引っ張りました。それはもう抜けそうという力加減ではありません。生き物に対する扱いではありませんでした。まるで、幼い人の兄弟が一つのおもちゃを取り合うような意地の張った言い方だったと、魔女は言います。 それを見て魔女は言いました。 「そんな風に扱う子どもにこの子はあげられないわ。私の家族を傷つけさせない」 ガキはおとなしく「わかった」と帰っていきました。いったように見えました。 しかし、魔女はガキが去った部屋を見渡して気がつきました。黒猫がいないのです。 やられた! そう思い、窓の外を見たときには既にガキの姿はありませんでした。 連れ去られた黒猫を想いながら、魔女はその晩冷たいベッドで独りを耐えました。 しかし、次の日の朝。 家の扉の前に小さな袋が置かれていました。袋の上には何かが書かれた紙が貼られていました。その紙には汚い、辛うじて文字に見えなくもない何かが書かれていました。 そこには その袋の中には ある使い魔の話をしましょう。 彼は黒猫でした。パートナーとなる魔女が生まれた時と同じ月の綺麗な夜、彼は母猫から生まれ、赤ん坊であった彼女と同じベッドで丸まっていました。 彼と彼女はとてもとても良い関係でした。 契約などに縛られることなく自由に、自分達の意思で共に在り続けました。在り続けられると信じていました。 しかし、それは突然終わりを告げました。 ワガママな若い魔女が彼を拐ったのです。 彼は反抗しました。 爪を立て、「帰せ」と叫び、出来うる限り暴れました。 そして、彼を拐った若い魔女はとうとう彼を
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