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これは、ある方から聞いたハロウィンのお話です。
忘却の森と呼ばれる森の一画に一軒の家があります。そこは魔女の家。若くてワガママな魔女の家。そこは、ほとんど誰も踏み入れない森の中でも特に誰も近づこうとしない場所でした。
そこにはワガママ魔女が「アタシに寄越せ」と奪ってきたモノたちがあちこちに投げ棄てられています。それらは彼女がカワイイと言っていたものたち。
生きてふわふわだった死んだキツネの尻尾、綺麗な小瓶だったガラスの破片、千切れた美しい羽とそれをもがれた小鳥だった鳥肉。細かい装飾が施されたカバーの貴重な魔導書は、もう持ち主を導くことがないのでしょう。可憐な花を咲かせていた植物は枯れ、何年も費やされてやっと完成されたドレスは埃まみれ。
その家は文字通り「宝が眠る」「宝が埋まる」家だったのです。
宝に興味をなくした若い魔女は、次の宝を探します。
おや? そんなワガママ魔女の扉をガンガンと叩く音がたくさん。
「うるっさい!」
ワガママ魔女は癇癪気味に扉へ近づきバタンと大きな音をたてて開きます。しかし、そこには誰もいません。
「ふざけんな!」
ワガママ魔女が家の中へ戻ろうと振り返ったとき、扉が勢いよく閉まりました。彼女はまだ家の外。
「はあ?ありえんし」
ガチャガチャと扉を開けようとしても開きません。仕方がないので近くの川へ散歩へ行こうと足を出すと、何かを踏みました。バナナの皮でした。
彼女は滑り、転びました。
転んだ先は、昨日までなかったはずの泥溜まりでした。結構深いです。しかも、顔面から突っ込みました。
それを魔女の家の中から見ている目が無数にあります。動くパンたちです。彼らはどこからか忍び込み、扉を叩き、扉を閉め、鍵をかけた犯人たちです。
一部はハイタッチをして「イエーイ☆」などと言っています。この辺りがバナナ・泥溜まり組なのでしょう。楽しそうです。一瞬外を見ます。楽しそうですね。
「しんじらんない!」
泥だらけの顔で彼女は立ち上がり、川へ向かいます。
それを見送った森に潜伏していたパンたちが家の前に穴を掘り出します。落とし穴です。しかも、どの道で彼女が帰ってくるかわからないので複数掘っています。けっこう深いです。
掘り終わった穴には、穴ごとに何かを入れていきます。
ある穴には大量の画鋲を。
ある穴にはそこらの林にいた蛇たちを。
ある穴にはそこらの川にいた鰻たちを。
ある穴には気を効かせて冷たい水を。
ある穴には気を効かせて熱いお湯を。
ある穴には驚きを重視して爆竹を。
ある穴には控えめに世界で2番目に臭い物を。
ある穴には猫が大好きな鼠たちを。
パンたちは協力してそれぞれの穴にどばどば投下していきます。家の中では、別のパンたちが準備をしていますね。
扉の上に白いチョークの粉をふんだんに吸った黒板消しを設置します。 椅子に座ればブーブークッションが咆哮をあげ、トイレに入ればタライが落ちます。もちろん、塩と砂糖のラベルを入れ換えることも忘れません。
地味で地味で意外と危険な悪戯です。
そんなパンの殻を被った彼らの中身は、かつてこのワガママな魔女のワガママによって命を落としたモノたちでした。彼らは全員、死ぬ間際にこう思いました。
「こんなやつのせいで自分は死なないといけないのか」
それは怒りや憎しみなどの強い感情でした。殺しても殺し足りない程の憎しみ。それがどうしてこのような悪戯へとなったのか。それは、彼らを作った魔女によるものでした。
彼らを、動くパンを作り出したのは、愛する黒猫を奪われた記録の森に住む魔女でした。彼女こそ、砕魂の魔女と呼ばれるモカ・ウィッチ様なのです。
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