3.漫画ソムリエ、現る

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 大通公園までは、外商部事務室を出ても、徒歩ですぐのところ。  百貨店や大型店舗があつまる札幌市の中心、そこを走る大通の車道ふたつに挟まれ、テレビ塔を起点に12丁ほど伸びている長い公園。  初夏はよさこいソーラン祭りの会場に、夏の間はだだっぴろいビアガーデンになる。冬は雪まつりの会場に。  今年も北国の短い夏を楽しもうと、この北海道らしいビアガーデンに人が集まっている。  そんな中、真広は仕事モードの黒いスーツ姿のまま、約束の噴水がある広場まで出た。  噴水そばにあるベンチに座る。  賑わうビアガーデンのメーカー別ブースが向こうに見るが、噴水の周りは静かだった。  時計を見ると、ぴったり約束の時間。  でも弟は仕事のついでに寄ってくれるし、車をどこかに駐車するのにも時間がかかるだろう。  やっぱり……。我慢すればよかったかな。弟に負担をかけたと後悔が押し寄せてきた。  案の定、薄暗くなって約束の時間を15分過ぎた……。  スマートフォンにもなんのメッセージも届いていない。 「事故じゃないよね」  かわいい息子を残して、若い妻を残して……なんて思ったら、姉としてもゾッとした。  こんなわがまま言うんじゃなかった。弟は気が優しくて、面倒見がいいヤツだから、ここまでしてくれたのに。
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