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義妹に連絡してみよう。スマートフォンを手に取ったら、同時でびっくり、弟からのメッセージ着信の通知音が鳴った。
ちらっと見えた通知欄には『行けなくなった。ごめん。それで、持って行くはずだった漫――』で切れている。
全文を見ようと画面をタップしたその時。
「小山 真広さんですか?」
パーカーを羽織ったデニムパンツ姿の男性に声をかけられる。
え、なんでこんなところで、私のフルネームを言える人がいるのか?
黒髪短髪頭の爽やかな面差の青年だった。
うっかり応対しないようにしようと警戒をしていると、向こうから名乗ってくる。
「俺、槙野といいます。真人君の同級生です」
え、弟の同級生? まさかと戸惑っていると、彼が片手に持っている紙袋を差し出してくる。
「真人が忙しそうだったので、自分が持って行くことにしたんです。今日は俺、仕事が休みだったので」
彼が漫画の同級生ということらしい!
真広は慌ててベンチから立ち上がり、見知らぬ青年に向き合う。
「あ、……真人の姉の真広です。わざわざそんな、大通まで出向いてくださって、ありがとうございます。てっきり弟がくるものとばかり」
「すみません。今日の昼に真人に渡すはずが、すれ違って会えなかったんです。それなら俺が持って行くということになっていたんですが、連絡はありませんでしたか?」
慌てて、再度スマートフォンのメッセージを確認する。
【 出張前でめっちゃ忙しくてさ。あいつとすれ違っちゃって会えなかったんだよ。また今度でいいと言ったのに。あいつ今日は自分が非番だから、お姉さんとの待ち合わせ場所まで持って行ってくれるというから甘えちゃったんだ。それから、再度、ごめん。忙しくてこれまた予定変更のメッセージ、いまになっちゃった 】
マジか。遅いわ!! と、いつもなら弟に遠慮もなく突っ込んでいるところなのに、今日は見知らぬ人がいるので、お淑やかににっこりするだけ。
【 変な男に声かけられたって間違えないよう。あいつが今朝職場で撮った自撮りを証拠写真と身分証明として送っておくな 】
さらにメッセージの下には、画像が送信されていた。
【 槙野 駿ていうから 】
その画像はたしかに彼の顔で。でも職場での彼の格好に真広は目を瞠る。
オレンジ色のレスキュースーツを着込んでいたのだ。
「身元も確認していただけましたでしょうか」
にっこりと爽やかな笑顔を見せる彼は、間違いなく弟の友人。
「え、消防士さんなんですか」
「はい。オレンジのレスキュー隊にいます」
50巻ある漫画の紙袋を軽々と高い位置に持ち上げ、真広に再度、差し出してくれていた。
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