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「せっかく目の前にビアガーデンがあることですし。私まだ、今シーズンは行ってないんですよ」
「俺も。数年……行っていないですね」
「じゃあ、なおさら。今夜の私の晩ご飯のお相手ってことで。男だからおごらなくちゃとか、女性に払わせちゃ悪いから割り勘とかなしね。お姉さんにご馳走させて」
「いや、でも」
「あー、重たい。軽々持ってきていたから大丈夫かと思ったけど、鍛えたレスキュー隊員だったからなのね。私には無理。はい、持って」
彼から受け取ったばかりの紙袋をさっと持たせた。
彼も諦めたのか、真広の調子にかえって肩の力が抜けたのか。
「はい。わかりました。では、がっつりご馳走になります」
「やったー。大ジョッキでぐいぐいいっちゃう」
お仕事モード解除で、地の真広をひけらかしてみると、彼がほっとした様子を見せる。
「よかった。めちゃくちゃ大人の綺麗な人で、ちょっと緊張しちゃって……」
「これはですね。百貨店に勤めているからこそのスタイルなんです。槙野さんのオレンジなレスキュー服と一緒だと思ってください。いわゆる制服みたいなもんです。中身はただのアラサー女です」
「なるほど? でも、俺の周りに、そんなキラキラと綺麗に整えている女性いないんで……。やっぱ、あの人かなと見つけたときも、すげえ大人の人とドキドキしちゃって」
「あははー! このスーツ脱いだら、ボサ髪で眼鏡で部屋着でビール片手に漫画読んでるの。想像して。どうてことない姉貴だって思えるから!」
あっけらかんと言うと、彼がぽかんと呆気にとられ顔……。でもすぐにまた、くすっと笑みをこぼした。
「いま真人と重なりました。うん、あいつのお姉さんってかんじですね」
「でしょ。真人だと思って、がっつり食べて飲んでください」
「俺も大ジョッキ行きます」
「勝負しちゃおうかな」
また彼がぎょっとした顔になった。
市民と観光客で賑わう札幌名物ビアガーデンのテントへと一緒に歩いて行く。
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