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百貨店店舗ビル裏にある社用車駐車場へ。大きくて黒いトランクには本日販売するための商品を詰め込んでいる。盗難防犯用のワイヤーベルトを自分の腕と繋げた状態で車まで運ぶ。
高額商品と共に社用車で出発する。運転はその日それぞれでしている。今日は真広が担当する。相棒は助手席だ。
「うっわー。夏ですねー。テレビ塔の真上、雲なしの真っ青」
「暑くなりそうだね」
「最近はここでも暑いですよね。俺が子供の時、こんな暑さじゃなかったですよ」
「ほんとだよね。温暖化のせいかな。雪も少なくなったもんね」
「そのぶん、今日も涼しくなるお洋服をご案内しますよー!」
「お、いいね。期待してるからね。紳士服担当」
西村 光輝は、真広に初めてついた相棒で、紳士服売り場で現場を叩き込まれ、外商部へやってきた二歳年下の青年だった。
まだ頼りないところはあるが、紳士服を任せたら最強。彼自身も、まだ二十代の若さではあるが、きちんとしたスーツを着こなし、上等な販売員の雰囲気を身につけていた。
彼が紳士服を手に取ると、すっと彼の提案とコーディネイトで綺麗に決まるものだから、店頭にいる時から売り上げ成績もよく、顧客からの信頼も厚く、ついに外商部へと異動してきたのだ。
今日は暑くなってきたので、涼しい普段着がほしい、でもラフすぎないものを――というご要望がある会社社長さんのところへと伺う。
大通公園界隈を抜けて、神宮へと向かう。
円山の緑に囲まれている高級住宅地へ。
いつものお客様との約束の時間に間に合うように。
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