32.愛の行方も気にしなくていい

1/7
前へ
/314ページ
次へ

32.愛の行方も気にしなくていい

 その日の夕。真広は大通公園へと向かう。  すっかり夏はどこかへ行ってしまい、黄金色に染まった銀杏の葉が舞う。街路樹には、ナナカマドの赤い実も目立ち始め、北国はもう冬支度の気配だった。  すっかり日が短くなり、北国の早い夜が始まっている。  夜空にテレビ塔が綺麗に浮かびあがる。  今日はこのテレビ塔がある1丁目広場で駿と待ち合わせ。  ライトアップで浮かび上がる鉄塔を見上げている彼をみつける。 「駿君、お待たせ」 「お疲れさま、真広」  また西村と一緒に選んだとかいう、山岳ウェアメーカーの薄い黒のコートを羽織って待っていた。 「ここで待ち合わせるの久しぶりだね」 「うん。俺も懐かしく待っていたよ。さて、行こうか」  遅い時間だったが、ウェディングプランナーのところへ、結婚式の相談に出向くところだった。  一緒に並んだだけで、駿が真広の腰を抱き寄せてくる。  そして。こんな街中の公園なのに。そっと真広にキスをしてきた。一瞬だけ……。 「もう、ここ中心街の公園だよ」 「でも。もう暗いし、誰も気にしない。おかえりってしたかったんだよ」  すっかり甘々のフィアンセになっていた。
/314ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8019人が本棚に入れています
本棚に追加