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6.恋はめんどくさい
いつものベンチへ行くと、もう彼が待っていた。
「真広さん」
白い歯が輝く爽やかな笑顔とはこのことかと、真広も笑顔になって手を振った。
「お疲れ様です。まだお仕事だったんじゃないんですか」
今日もきっちりスーツ姿のせいか、彼が気にする顔をした。
「いえいえ。次の準備に店内を回っていただけです。次にお客様になにを持って行こうか勧めようかと考えていると、ついつい商品に見入っていて時間が経ったりして。ちょっとギリギリでしたね。お待たせしてしまいました」
そんな今日も、ベンチには紙袋が置いてあった。
そして真広の手にも紙袋。
それぞれ十冊ずつ入っている。
「面白かったです。一気に十五巻まで読んでしまいました。やはり十巻ペースで入れ替えていただくのがいい感じですね」
「そうですか。ですが返す本のなかに、もう一度読みたい巻などがあれば、そのまま手元に置いていても大丈夫ですよ。きっちり返していただかなくても」
「では、これからはそうさせていただきますね」
お互いの紙袋を交換する。
交換したそこで、互いに無言になった。
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