6.恋はめんどくさい

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 また彼が黙った。おいしそうにスープをすくっていたスプーンを置いて、視線が遠い向こうへと睨んでいるようにすら見えた。  その顔がまた初めて見せる険しいもので、彼がなにかに対して真剣に思いを馳せている様子が伝わってくる。 「槙野君?」 「俺もです」  遠くを見据えていた硬い表情が、今度は真広へとまっすぐに向けられる。 「俺もおなじです。恋もしたいし、彼女も欲しいとは思っています。でも、いまの俺、だめなんです。俺自身と仕事が優先。やっとレスキューに入隊できたので、リズムを崩したくない。気を抜けば要救助者に対しても隊員である俺も命取りになる。俺はまだ未熟だから余計に気を張っているんです。そんな時に、不規則な仕事に合わせて、自分のことを待ってばかりいる彼女に申し訳ないし、大事なときにいて欲しいと言われても、その願いは叶えてやれない。家族より任務が優先される仕事です。そこでいざこざするくらいなら要りません。なるべく精神的ことに対してリスクヘッジしておきたいと思っているので……」
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