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彼がすとんと、階段の上に真広を降ろしてくれる。
「やだ。ちょっと……、らしくないことして焦っちゃったかな」
もうかっこわるくて、彼の顔が見られなくなった。
なのに。階段の中腹になるそこで、彼がぐいっと真広を壁際に押していた。
「え……」
「お姉さん」
彼がものすごい真上から見下ろしていて、その真剣な眼差しに威圧感がある。
しかも彼が身をかがめて、そっと真広の首筋に鼻先を近づけてきた。
「ずっと思っていたんですよ……。会ったときから、ここ、キスして匂いかぎたいって」
ドキリと心臓が跳ね上がる。男の匂いが濃く充満しはじめ、真広の鼻孔をくすぐりはじめる。
「我慢していたのに。さっきは致し方ないと堪えたのに。いま落ちそうになったあなたを後ろから抱きしめたら、首筋がすぐそこ。たまらなかった」
「……そ、それは……えっと……どういう?」
なのに、そこで彼が大きく息を吸って、致し方ないように離れた。
地下から人が階段を上がってきたからだ。
その人をやり過ごすと、彼から階段を降り始めてしまう。
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