9.ヒリヒリさせて

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 また彼のくちびるが、首筋に戻って来た。  今度はやさしくない。何度もちゅっとした音が聞こえ、強く吸い付いてきた。  そこは真広も弱いところだから、さっきは力を入れて我慢をしていたのに、もうだめ。『あっ……』と声が漏れていく。  ブラウスも、ランジェリーも、彼の手だけじゃない、真広自身も解いていく。黒髪をアップにしていたバレッタも外して、髪をおろす。  まだ汗も落としていない素肌だけの身体になって、真広は彼へとやっと向き合う。  夜灯りのなかでも、消防官の男の目は澄んでいる。その目を下から見つめて、真広は聞く。 「キス、してもいい?」 「いいっすよ……、なんで、聞くんですか」 「だって……。恋人なんかじゃないから」 「キスは恋人とするものだと?」 「わたしは……、抱いてくれる男としたい」 「俺も女を抱きながら吸いたい」  彼の言葉を聞いて、真広から裸のまま彼の首に抱きついて、少し上にある男のくちびるにキスをする。  ちょっと背伸びをした姿勢になったから、彼が少し身をかがめてくちびるを重ねてくれた。  愛なんか誓うためではないキスが、そこで結ばれる。  男と女の官能のためのキス。
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