2.青年漫画くださいな

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2.青年漫画くださいな

 仕事はやっと独り立ちをさせてもらい、担当顧客宅へ、先輩の付添いなしで訪問できるまでにキャリアを積むことができた。  高価なものだけを売るための仕事ではない。外商員は、その宅へ向かう『百貨店そのもの』。お客様のご要望に応えてこそ、または満足していただける品選びができてこそ、それが職務。  売り上げで成績をあげるだけが喜びでもない。さまざまなところからバイヤーによって集まってくる、作り手の情熱を感じる商品に触れるのも好きだった。その情熱を買い手に伝える。それを大事にしてくれる。おすすめしてくれて、ありがとうというお客様の笑顔が好きで、この仕事には非常に満足をしている。やり甲斐も感じている。  ただ。それでノンストレスかと言えば、そうではないと言いたい。  お客様に粗相のないよう気を遣うのは当たり前だし、高額商品を抱えての訪問業務は紛失に破損に盗難に遭わぬよう神経をすり減らすし、バイヤーとのすり合わせにも気力が必要。商品の勉強も怠ってはならないし、身なりにも失礼がないよう派手すぎず地味すぎずのナチュラルな出で立ちに整えるのにも頭を使う。  なによりもコミュニケーション能力が試される。お客様との距離が、店頭の販売員より近い。つねにテンションを高めていないといけない仕事でもあった。  自宅に帰ってきて、くたくたになったら、ビールは飲みたいし、甘い物も食べたい。  すっかり忘れる時間を作らなくてはならないし、仕事の下調べなどの時間も必要。  そのバランスを取るために、最近、真広がはまっているのが青年漫画だった。
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