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タスクのことを好きになってから、まだそんなに長くはない。
最初はただチャラそうなヤツって思ってた。
ノリも軽いし女友達も多いし、まあ普通にかっこいいし。
翼ほどじゃないけどクラスでも目立っていた存在、だから嫌でも目に入ってきてはいたけれど、あの日までは全然意識したことなんかなかったんだよ。
六月の体育の時間、女子はソフトボール、男子は野球。
私は取りこぼしたボールを追いかけて、男子側のグラウンドにまで取りに行った。
ゴロゴロ転がるボールをやっと拾い上げようとした、その瞬間聞こえた声。
「危ねえって、野々!!」
え?
殺気だった声のした方に振りむこうとした時、私を背中から抱きしめる人。
背中越しに、ドスッという鈍い音が聞こえた気がした。
「っうっ」
苦しそうな声と共に私を抱きしめてた腕がゆるむ。
振り向いたら、うずくまるタスクがいた。
「タスク?」
何が起きたの?
タスクが目の前でしゃがみ込んだまま、背中をさすっていた。
「タスク? どうしたの?」
何か痛そうな顔、してる……。
わけの分からない状態に呆然としていると「タスク、大丈夫か⁉」と駆け寄ってきた男子たちが教えてくれた。
バッターが打ったボールが、私に直撃しそうだったのを、タスクが身を挺して守ってくれたのだということ。
私をかばって、タスク自身の背中にそれが当たったのだということを教えてくれた。
「タスク、ごめんね、痛いよね、ごめん。保健室行こう?」
痛そうな様子に涙目になった私の頭をタスクはグシャグシャッとなでて、笑って立ち上がる。
「野々が怪我ねえならいいや、おっきい声出してごめんな」
私が気にしないように痛みに堪えて笑ってくれすタスクに、胸の奥でなにかが流れ出す。
タスクってめちゃくちゃ優しいヤツじゃん。
そう思ったら、さっき抱きしめられたこととか、笑顔とか、声とか全部リピートしてしまって、心臓の音が破裂しそうなくらいドキドキしてしまっていた。
そこからだった、どんどんタスクの存在が私の中で大きくなっていっちゃったのは。
だからさ、タスクが朝ちゃんのこと好きなんだなって思ったら、そりゃちょっと切ないし悲しいけれど。
私がタスクのことを好きになってからまだそんなに長くもないんだもん。
失恋したってすぐに忘れるさ、ってそう思ってたんだ、その時はまだ。
諦めればいいんだって。
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