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8月3日
「野々、色ペン買いに行くぞー!」
「え、やだよ、あっついもん」
そんな私の言葉などタスクには聞こえていないらしい。
「勇気、色ペンの他に何か欲しいもんない? 飲み物とか適当に買ってくっけど」
「お金後でもいい? 自転車使うなら鍵貸すけど」
「うん、後でいい! したら借りるわ、勇気の自転車。行くぞ、野々」
「い、やだー! アッツイの、やだー」
勇気くんから自転車の鍵を借りたタスクに、無理やり腕を引かれて、炎天下の太陽の下に連れ出される。
断ったというのに、何でだ、出たくなかった、こんな日に外には。
暑さには、なまら弱いのだ。
ジリジリとした陽ざしが昇降口を一歩出た瞬間、容赦なく襲ってくる。
「男子同士で行けばいいしょや、女子は出たくない~!! 日に焼ける~!!」
ウダウダと夏の暑さに嘆く私に、タスクは苦笑いをした。
「たまには、勇気とあかりん二人だけにしてやるべし!」
「は? なしてさ?」
「オマエ、気付いてねえの? あの二人、好き合ってるってば!」
え?
「えええええ⁉」
本当に驚いて目を丸くしている私を見てタスクはゲラゲラ笑い出す。
「したから、野々は鈍すぎるんだわ」
「うるさいよ、タスクに言われるとなんかムカつく!」
「はいはい。あ、野々さ、自転車の後ろ、乗れる?」
「乗ったことない」
「オレにつかまってればいいから」
つかまる? タスクに?
勇気くんの自転車に跨ったタスクが、後ろの席を叩いて私を急かす。
「早く乗れ、置いてくどー!」
「え、ちょっと、待って」
あわてて、後ろの席に横乗りし、タスクのシャツの裾につかまる。
「野々スカートだったら、【見えた】かもしんねえな、ジャージで良かったな」
「最低!」
振り落とされないようにつかまると、タスクの背中に頬が触れるほど近づいちゃった。
感じる太陽以外の暑さに、また例のごとく心臓が焦り始めちゃって、少し離れると。
「もっとちゃんと掴まれや、スピードあげっから」
「えっ、わー! わ――――!!」
しっかりとつかまるためにタスクの背中にしがみついた。
自転車のスピードが速くなるほど、私の心臓の音もドキドキと激しさを増す。
どうか、このバカみたいに早鳴ってるものが伝わりませんように、と必死に願う。
だってタスクにとって、私の気持ちは迷惑でしかないもん。
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