アニバーサリー・プレゼント

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「今日のディナー美味しかったね。こんな路地裏に連れてくんだもん、ビックリしちゃった。これで味も悪かったら許さなかったよ?」 「そう言うなって。ここはな、うちの職場連中も利用するイタ飯屋なんだよ。値段がリーズナブルなんだけど本格的でよくグルメガイドなんかにも取り上げられるんだぜ?」  美香はプレゼントだけではなく、ランチやディナーなど頻繁に外食を要求するので、外食費の出費はかなり痛い。  そこで、職場で本格的だが良心的な値段の店を職場の同僚に聞きまくった。少しでもデート費を節約するために、そういった努力は惜しまないのが直史という男だ。 「ガイドブックに載ってるわりにはお客さんは少ないのね?立地の問題かしら?」 「あーそうかもな。オフィス街からは外れるし駅からは結構距離があるからそこはネックかもしれない」  そういえば、この先の交差点であのペンダントを拾ったんだったな、ブリーフケースに入れた赤いペンダントを思い出した。  ここ最近の美香は、プレゼントされるアクセサリー類がガラス玉のパチモンではないかと怪しんでした。そういう内情もありあの交差点に落ちていたペンダントは直史を救った。 「美香、これ交際2年目のプレゼンだ。きっと気に入ると思う」  修繕し錆を落とした赤いペンダントは素人目でも高価なものだと分かる。それを手にした美香は大はしゃぎして喜んだ。今まで送られたプレゼントなどは比べ物にもならない豪華で美しい赤いネックレス。  「すごい!石がおっきいね!赤いからルビーかな?それともガーネット?きれい!チェーンがピンクだけどピンクゴールド?趣味いいじゃん、わかってるー!直史ありがと!!」  美香は直史の右腕に胸を押し付け、鼻の下を伸ばした男に自分が出来うる限りの最大の賞賛を送った。  ジュエリーケースからペンダントを取り出し、美香の首に手を回し、パチンと金具を付けた。赤く宝石が輝くペンダントは、胸元が大きく開いたピンクのカシュクールによく映えていた。少し見える黒いキャミソールのレースすら上品に見えるほどに。  あぁーあのペンダント拾ってよかったわ、オレすごくね?あんな高価そうな品タダで手に入れられるって天才じゃね?などの心の中で厚顔無恥に自画自賛する直史。  ふっと周りを見渡すと、此処がペンダントを拾った交差点だったことに気付く。  気付かなかったな、いつの間にこんな歩いてたのか、駅とは逆なのに。でもおあつらえ向きの場所じゃないか、ペンダントを拾ったところでそのペンダントを渡す。運命的なものすら感じる。  ふふっと鼻を鳴らし、さらなる賞賛がくることを予想していたが、急に美香が押し黙った。  感動して感極まりすぎ言葉を失ったかと思ったが、様子がおかしい。 「おい、美香…」声をかけた直史は己が言葉を失った。  眼は充血して白目をむき、口からはよだれをこぼしている。鼻からつぅっと血が垂れ、彼女の唯一といって美貌が恐ろしく歪んでいた。  美香がうぅっとうめき声をあげ、よく見るとペンダントがみるみると首を絞めている。そのうめき声にはっと我に返った。 「まっ、おい!首締まってるぞ、それ取れよ!…っ!なんだこれ!取れねえ!!」  ペンダントを取ろうと美香の首に手をかけたが、ペンダントはさらに首を絞めつけ、さらに取ろうと藻掻くほどペンダントは無常にも首を絞めていく。 —きゃぁぁっぁ、人殺し!— —誰か警察!警察に電話!!— —おい、やめろ!その人から離れろ!—  行きかう男が、女が、人々が口々に叫び、交差点の付近は阿鼻叫喚。  男たちが直史を取り押さえようとするので、激しく暴れて抵抗した。こんなことをしている間に美香の首が締まると焦る。彼女からペンダントを外そうとしているのに気付かない人々に腹を立て、ともかく早く外さないと慌てたがそれが伝わらない。  そして……美香がぶらん、と腕を下げ、ピタリとも動かなくなった。 —いやぁぁぁぁぁあぁ—  通行人の一人が大声を上げ倒れたのを、他人事のように見ていた。
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