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アニバーサリー・プレゼント
「ねぇ。もうすぐ付き合って2年になるんだよ?来月の11月15日でちょうど2年目。交際記念日に何か特別なプレゼントが欲しいな~」
美香の猫撫で声を思い出し、直史は肩を落とした。パソコンを入れている茶褐色のブリーフケースがいつもより重く感じる。
折角定時で上がれたというのに赤信号に捕まってしまった。信号が早く青くならないのかと、イライラしながらジャケットの懐にしまってあるライターを取り出し、煙草をふかし始めた。
隣にいたセーラー服の女子学生が、白い煙を手で振り払い後ずさりしたを横目に見ながら、直史は気持ちよさげにプカプカと副流煙を口から吐き出した。
青信号に変わったが、オフィス街の外れの交差点は人通りは少ないが車の通りが多いので、今日も信号無視で突っ込んでくる車が多い。
ふざけやがって!てめぇらちゃんと信号見てねぇのかよと毒づきながら早足で横断歩道を渡る。
信号を渡り切り、目の前に現れる電柱柱の下に、キラリ、と光る何かを見つけ足を止めた。屈んで拾い上げると、それは赤い宝石が散りばめられたペンダントだった。
大ぶりの赤い宝石が中央に鎮座し、小さい赤い石がそれを囲むように輝いている。チェーン部分は所々変色してしまっているがピンクゴールドのようで、全体的に色彩が統一されていて美しい色合いとして目に入る。素人目でも高価だということが分かった。
こりゃラッキーだな、と直史はペンダントをブリーフケースに丁寧にしまい込む。
後ろを歩いていた女子学生は反対側だったようで、直史の行動は誰にも見られていない。あぁ、なら、これをパクってしまう。
交際記念日だか何だか知らないが、毎回そんなものにいちいち金をつぎ込むのは馬鹿らしいと思っていた直史にはまさに渡りに船の代物。
アクセサリーを専門に商売してる露天商の知り合いがいたはずだと記憶の底にある名前を思い出す。確か仁志だったか、そいつに頼んで安く仕上げてもらう、ついでにそれっぽい包装してもらえれば新品に見えるし、美香が納得すればそれでいい。
憂鬱だった記念日もこれで乗り切れると安堵した。
今日はいい酒が飲めそうだとさっきまで鬱屈していた気分も晴れてきた気がした。
無造作に入れたペンダントが、ブリーフケースの中でごそごそしているのに、直史は気付かなかった。
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