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診察室を覗くと、もうデスクに座ってパソコンの電源を入れている。
「まだおなかいっぱい。今日のお料理、披露宴も二次会もおいしかったねー」
「そうだな」
画面が立ち上がると、彼女はドクターバッグからカルテをとりだし、それと向きあいながらの入力を始めてしまった。
ああ、これはまた。しばらくはドクター美湖のままだなと晴紀も諦めた。
そしてまた晴紀は気がつく。またやられた。俺が心配していたのに、いつのまにか先生の明け透けでびっくりする口ぶりに振りまわされて、結局『私はなんともない』とばかりにさらっとかわされていたと。
そう。あれが彼女の『私は大丈夫だよ。そんなに心配しなくてもいいよ』の気遣いなんだって。
キッチンでひとり冷蔵庫の食材を確認しながら、晴紀はまたうなだれる。
もう、なんだよ。結局、大人の先生に上手に宥められたのは俺じゃないか。
手伝ってあげられなかった自分を責める前に、先生の達者な口に見事にそんな苛む自分を撃退された気分だった。
「あっさりめ、きつねうどんでいいか」
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