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「島流しですからね」
「本気でそう思っているのか」
「さあ。いつものことですから。教授がなにを考えているかなんて気にしません」
彼が美湖の背中を叩いた。
「そうそう、それでいいんだよ。それで俺もここでいまは自由にしているんだから。いいぞ、ここは。学閥のしがらみから開放されるし、海は綺麗で空気もいいし、のんびりしている。なにより魚がうまい」
ああ、遠い島に流されて到着した時によく言われる文句に違いないと、美湖はさらにゆるく微笑むだけ。
しかし吾妻が耳元で囁いた。『しばらくの辛抱だ』と。ふと彼の顔を見上げると、吾妻はなにかを企んでいる自信ありげな男の眼をしていた。
美湖の周りにいる『優秀な男たち』はだいたいこの眼をして、お腹の中の黒いものを上手に隠して微笑んでいる。美湖に島に行くように指示をした教授も、そしてこの『指導医』だった吾妻も。彼らほど胡散臭い男はいない。それだけに『最強の後ろ盾』ともいえた。
なのに美湖は『島の新しい診療所に行ってくれ』と唐突に言われて来てしまった。
彼が用意してくれていた車に乗せられる。発進した車は島の海沿いを走り出した。
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