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窓を開けると鮮烈な潮の匂い。ほんとうに海がすぐそば……。
「もう誰も住まなくなった家屋をリフォームしてくれたんだ。中は新築同然、海も見えてなかなかいい一軒家だ。診察室には必要な器具と機材を揃えておいた」
「ありがとうございます」
「あいっかわらず淡々としているなー。あはは!」
彼が笑い飛ばしながら、運転している。
その時、『病院』と目立つ看板がある前を通り過ぎた。
「吾妻先生はここで?」
「そう島の総合病院はここな」
田舎に良くあるこじんまりとした総合病院。三階までしかない一棟のみ。それでもこの島の医療がここに集中しているのだろう。
「この島はまだいいほうだよ。総合と名の付く病院があって、医師がいる。無医村ではない。それでもな、この島も高齢者ばかりだ。島のこの地形、わかるだろ」
海岸線を走っていたと思ったら、あっという間に坂道を車があがっていく。
「海の中から生えた山ってことだよ。島ってやつは」
そして美湖はこの島の中央にある病院ではないところへ向かっている。
「島の裏側、頼むな」
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