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冷蔵庫にあった『油揚げ』を小鍋で甘辛に煮始める。もし今夜食べられなくても、明日の昼飯にすればいいと思いながら。
そろそろ先生も仕事が終わったのではとコトコト煮ている揚げを眺めていると、また誰かの声が聞こえる。
『先生、美湖先生!』
女性の声がして晴紀もダイニングから診療所へと繋がっているドアを開けて覗くと、小学生の男児を連れた母親の声だった。
白衣の美湖が診察室からすぐさま出てきた。
「武井さん。大地くん? どうしたの」
「熱が昨夜から下がらなくて――、もしかして……」
インフルエンザ? と母親が首を傾げた。
美湖が腕時計を見る。
「昨夜の、いつから」
「気がついたのが夜の20時ぐらいです。でも今日は先生、結婚式で島を出ていると思って様子見をして……、全然熱が下がらないから休診日だけれど来てしまいました」
美湖がちらっと肩越しに晴紀を見た。
「ハル君、こっちにこないで」
インフルエンザかもしれないから、ということだとわかったから頷いて、晴紀も大人しくダイニングへと戻った。
またいつもの『診療所の先生』に戻ってしまった。
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