11人が本棚に入れています
本棚に追加
暖かな春の陽気が、わたしに注がれる。
天気は快晴。健康状態良し。忘れ物なし。
スーツはまだ慣れないけど、そのうち体に合うでしょ。なんたって、もう社会人になるんだもの。
自転車を転がし、春の道を駆ける。
行きは楽だけど、帰りはちょっとしんどい。
そのうち、車の免許を取ろうかな。いや、独り暮らしの方がいいか。
家からはちょっと遠いし、考えておこう。
どちらにせよ、まだまだ他にやるべきことが沢山ある。
まずは仕事を覚えて、出世して、世界を征服する!
そしたら、さゆりの奴に自慢してやるんだ。
あいつ、どんな顔するかな?
おめでとう、とか絶対言わないだろう。
心底嫌そうな顔で、舌打ちでもするんだろうか。
それでいい。それでいいんだ、わたし達は。
あいつが、あいつのまま生きてていい世界を作る。
理不尽なんてない。誰も、何も奪われない。
そんな世界にする。わたしが世界を征服する。
やがて、アジトが見えてきた。
看板に書かれた『シャドウアークヌマヅ支部』の文字。
隠すつもりはなさそうけど、秘密組織じゃないんだものね。中身はしっかり悪の組織だ。
「おはよう。早かったね」
アジトの玄関が開き、おじさんが顔を出す。
…いや、もうおじさんじゃない。
わたしの上司、シャドウアーク最高幹部ドゥンケルケーニッヒ支部長だ。
わたしは自転車を降りて、背筋を伸ばした。
「鬼柳薫子。戦闘員黒薔薇号、只今参上しました!」
「よろしい。では黒薔薇号、貴様の使命を聞かせてもらおう」
わたしは、精一杯声を張り上げた。
「世界を、征服します!!」
完
最初のコメントを投稿しよう!