6、終わらない歌

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 暖かな春の陽気が、わたしに注がれる。  天気は快晴。健康状態良し。忘れ物なし。  スーツはまだ慣れないけど、そのうち体に合うでしょ。なんたって、もう社会人になるんだもの。  自転車を転がし、春の道を駆ける。  行きは楽だけど、帰りはちょっとしんどい。  そのうち、車の免許を取ろうかな。いや、独り暮らしの方がいいか。  家からはちょっと遠いし、考えておこう。  どちらにせよ、まだまだ他にやるべきことが沢山ある。  まずは仕事を覚えて、出世して、世界を征服する!  そしたら、さゆりの奴に自慢してやるんだ。  あいつ、どんな顔するかな?  おめでとう、とか絶対言わないだろう。  心底嫌そうな顔で、舌打ちでもするんだろうか。  それでいい。それでいいんだ、わたし達は。  あいつが、あいつのまま生きてていい世界を作る。  理不尽なんてない。誰も、何も奪われない。  そんな世界にする。わたしが世界を征服する。  やがて、アジトが見えてきた。  看板に書かれた『シャドウアークヌマヅ支部』の文字。  隠すつもりはなさそうけど、秘密組織じゃないんだものね。中身はしっかり悪の組織だ。 「おはよう。早かったね」  アジトの玄関が開き、おじさんが顔を出す。  …いや、もうおじさんじゃない。  わたしの上司、シャドウアーク最高幹部ドゥンケルケーニッヒ支部長だ。  わたしは自転車を降りて、背筋を伸ばした。 「鬼柳薫子。戦闘員黒薔薇号、只今参上しました!」 「よろしい。では黒薔薇号、貴様の使命を聞かせてもらおう」  わたしは、精一杯声を張り上げた。 「世界を、征服します!!」 完
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