八月三日 花火大会の夜

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 花火開始は七時から。でも、先にゆっくり屋台をまわりたいねって早めに家を出た。  俺たちはこの日のために、一ヶ月前から有休の申請もしていた。  一ノ瀬さんはもう指折り数えてワクワクしちゃって、張り切って生成りに縞模様の甚平を買った。  俺は青色の細かい市松模様の柄の浴衣。  帯は紺色で、七宝柄っていう、コンパスで(まる)をいっぱい重ねたような模様が入ってる。それに、ちょっと粋なお財布ポーチと、雪駄(せった)がセットになって一万二千円とお値打ち価格だ。  本当は一ノ瀬さんみたいに甚平の方が涼しそうだし、動きやすそうだからお揃いにしようかなって思ったんだけど、店員さんが来て「こちらどうですか? 似合いますよ~」なんてかなりグイグイ勧められたから浴衣にした。こんな時じゃないと着ない服だし。たまにはいいかな? なんて思って。  一ノ瀬さんがターキーレッグに被りつき、満面の笑みを向けてくる。 「じゃあさ、全部一個ずつで半分こすればいいね! そしたらいろんな種類食べれるもんね」 「うん! はい。じゃあ、交換。プリプリして、お醤油香ばしくて美味しいよ」  半分食べた、いか焼きをお皿ごと交換する。  ちょっと齧ってる見た目とかどうよって感じだけど、頭と胴体と足、それぞれ一ノ瀬さんも食べたいだろうし。相手は一ノ瀬さんだし。  串のみだとバランス的に危なっかしいけど、お皿つけてくれて助かったよ。  ターキーは見た目ごついけど、食べてみるとしっとりして燻製のいい香りがした。  一ノ瀬さんはそのあと早くも、甘いの食べたくなったーと言って、ドラゴンアイスの屋台へ並ぶ。真っ白のふわふわした見た目のかき氷。一ノ瀬さんは自分が食べたくて買ったはずなのに、スプーンですくうと最初のひとくちをこちらへ向けた。 「ほらー、シロちゃんあーんして」 「え、あ。あーん」
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