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夏。住宅街。ツキちゃん。
みーんみーん、じゅわじゅわじゅわ。
遅めの梅雨が開けて、八月。今までのどんやり雲はいつも間にかどこかに行って、今は真っ白の雲と絵の具みたいな青色の空だけが頭の上を支配していた。
なんでもない住宅街。病院から抜け出してきた。
無限に続く十字路。大きなカーブミラー。小さな公園。
全部が初めての世界。怖くて不安な気持ちはもうない。今はわくわくで胸がいっぱいだった。
「ツキちゃん、夏が来たよ」
あたしはツキちゃんに言う。ツキちゃんの冷たい手は相変わらず折れそうで細かった。
「うん、ヨルちゃん。わかるよ」
ツキちゃんは目が見えない。あたしが手を引っ張らないとツキちゃんはどこにいるのかもわからない。
あたしとツキちゃんは双子だ。
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