夏。住宅街。ツキちゃん。

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 見上げると、さっきまで立ちふさがっていた崖みたいな階段もあと少しで終わりだった。麓から見たら、あんなに立派に見えた鳥居は古ぼけていて、こぢんまりしていて、なんだか裏切られた気分だった。 「大きいね、ツキちゃん」 「うん、ヨルちゃん」  ツキちゃんの声はどことなく弾んでいた。生ぬるい風から涼しい風に切り替わったのが分かったのだろうか。さっきよりもかなり涼しい風が吹いていた。  振り返ると、ぜいぜい肩で息をしているお兄さん。額にびっしり汗を掻いている。 「よく登れたなぁ、汗もかかずに!」  感心したように呟いて、ポケットから取り出したハンカチで汗を拭う。茶色の岩がマグマを吹き出しているみたいだった。あたしだって汗、かいてるんだけどなぁ。 「みて、ヨルちゃん」  ツキちゃんがあたしの手を離して走り出す。鳥居を駆け抜けるとそこには灰色の砂利でしきつめられた境内だ。砂利を蹴り上げながらツキちゃんは走る。さびれてすこしだけ傾いている神社には目もくれずに、その脇を駆ける。まるで元々知っていたみたいだった。 「まって、ツキちゃん」  あたしのぽろっと出た言葉なんて聞こえているはずもなく、ツキちゃんは待ってくれなかった。
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