夏。住宅街。ツキちゃん。

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「ヨルちゃん。これからどこに行くの?」 「まだ内緒」  お揃いの服。お揃いの背丈。お揃いの帽子。  全部がお揃いのツキちゃん。一つだけ違うのは前髪の長さ。目の見えないツキちゃんに前髪が長かろうと短かろうと関係ないのだ。鼻の先まで伸びてるヨルちゃんの前髪。あたしは好きだった。  手を繋いで当てもなく歩く。もう病院には戻れない。ツキちゃんの病気は治らないようだった。それはまだまだ子供のあたしにもよくわかっていた。 「おうい、ちびっ子。どこ行くんだ」  あたしの目的地はほとんど決まってた。  背後から声を掛けてきたのは学生服に自転車を引いたお兄さんだ。真っ白のワイシャツにじっとりと汗を滲ませている。ツキちゃんは何が起こっているのかわからないみたいだ。いきなり振ってきた男の子の声にびっくりしたようだった。 「どこでもいいでしょ。ほっといて」 「いや、でも小さい子だけだと危ないし」 「昼間じゃん」 「なにかあったら遅いの」  あたしが何を言っても後ろをぴったり付いてくるお兄さん。お兄さんももしかしたら寂しいのかも知れない。チチチと鳴る車輪の音がこびりついて五月蠅かった。
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