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石段を一歩一歩登っていく。お兄さんは自転車を入り口に停めて後ろをぴったりくっついてくる。あたしは振り返らなかったけれど、ゴムのすり切れた運動靴が石段を擦る音があたしたちの足音をずらしながら聞こえてきた。お兄さんも何も言わない。話しかけるのを諦めたみたいだったけれど、付いてくるのは諦めなかったみたい。
石段は思ったよりも一個が大きくて、二人で登るにはちょっと時間が掛かりすぎる。ふうふう肩で息をして、それでも一段しっかりと、登る。
「ヨルちゃん、大丈夫?」
「ツキちゃんも、大丈夫?」
石段を少し脇にそれるともうそこは森。うっそうと茂る背の高い木々が太陽も空も全部隠した。暑さはない。寒すぎるくらいだった。けれどぐわんぐわんと鳴る蝉の声でどうしても夏を思い出してしまった。暑すぎる、夏の思い出を。
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