夏。住宅街。ツキちゃん。

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 消毒。真っ白。揺れるカーテン。シーツに赤いシミ。透明な点滴。パパ。ママ。やつれたパパ。猫背のママ。包丁。ノイローゼ。ツキちゃんの二つの曇った眼球。  頭を振ってそのイメージを追い出した。もう逃げてきた。もう思い出さなくても良いはずなのに。 「ヨルちゃん」  ぎゅうとツキちゃんが手を握る。汗ばんだ手。細くて、小さい、あたしと同じ手。 「ちびっ子。僕が送るからもう帰ろう。神社にいっても何もないよ」  お兄さんが口を開いた。しびれを切らしたのか、それとも疲れちゃったのか。は、はと犬みたいに口を開いて言う。うるさいな。小さく舌打ちをしたけれど、振り返らない。
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