ある朝

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目覚まし時計の音が鳴る。 放っておいたらいつまでも頭の上で音を散らし続けるであろうそれを、私は手探りで静かにさせる。 今日も一日が始まってしまった。 起きて、支度をして、会社へ行く。 その行程の億劫さと言ったらもう、学生時代のマラソンの授業を遥かに凌駕している。 ああ、あと五分。あと五分だけでいいから寝かせてほしい……。 私は寝ぼけていても操作ができてしまうくらいには手馴れた手つきで、スマホのタイマーを起動した。 きっかり五分後、スマホから私の気分とは甚だほど遠い軽快な音楽が鳴り響く。 私は今度こそしぶしぶ布団を抜け出し、洗面所に向かう。 鏡に映った自分に、驚く。 なんて、なんてひどい顔なのだろう。 疲れきった目元に、潤いをなくした唇。 髪ですら生気が失われたようにぱさぱさだ。 ああ、私、こんなになって何がしたいんだろう。 頭の中に、上司からの叱責の声やあちこちで囁かれる同僚の悪い噂、押し付けられた山積みの仕事がぐるぐると現実感をなくして回りながら、溶けていく。 もう、いいかもしれない。 ふとそんなふうに思う。 私はいつの間にか小さな子どものようにぺたりと床に座っていた。 誰かのすすり泣く声がする、と思ってくるりと部屋を見回してももちろん私しかいない。 あ、私か。私が泣いているんだ。 自分が泣いているとわかった途端、今度はなぜか笑いが込み上げてきた。 もう、いいよね。 壁にかかっている時計を見上げると、いつも乗っている電車が発車するまで、あと五分。 いつも通りの場所で、いつも通りの時を刻んでいる時計を眺めていたら、なんだか無性に安心して涙も笑いもいつの間にか止まっていた。 ふう、と息をつくと私はゆっくりと、しっかりと立ち上がった。 洗面所の鏡に私が映る。 さて、ここからどんな私になろうか?
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