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高スペック男子 腐女子と出会う
「頼む! 神宮寺! 今度の金曜日にやる合コン、数合わせで参加してくれないか?!」
面倒な取引先との打合せが終わり、会社の休憩室でインスタントの珈琲を飲んでひと息吐いている時だった。大手つまみメーカーに勤める俺ーー神宮寺颯人の前に同期で俺と同じく営業部の石井が焦った様子で頭を下げて叫ぶように言った。煩わしげな視線を送ると、懇願の眼差しで見詰められる。
「パ・ス・だ」
一刀両断で断ると、「神宮寺ぃぃ~」と泣きついてきものだから、喉の奥から溜め息を出さずにはいられない。
「なあなあ、そう言わないで頼むよ~! お前がいるのといないとじゃ女の子のテンションの差が一と百くらい違うんだよ~!」
「そう言って、毎回、俺をだしにする割りに後から文句を言うよな? 神宮寺ばかりモテてずるいって」
「それはまあ妬みの一つや二つは出てくるだろうよ、お前のその完璧なまでの容姿を目の前にすれば大抵の男は霞むだろ? 綺麗な八頭身に程よく鍛えられた筋肉! そして芸能人顔負けの顔っ! まあ、でも、それに関してはまじで謝るよ! ごめんっ! これからは絶対に言わない! だから、ね? お願いします!」
石井は叱られた犬のような顔で俺を見詰め、両手を顔の前で合わせ「お願いっ! お願いっ!」と頭を下げる。周りにいた社員達が何事かとチラチラと此方に視線を寄越す。
あー、もう……。
「分かったよ、今回だけな。でもこれっきりにしてくれよ」
「まじで!? さんきゅー! 神宮寺、愛してるぜっ!」
「はいはい、どーも」
結局、同期のお願いを断る事が出来なかった自分に二度目の溜め息が漏れた。
別に彼女が欲しくないわけではない。合コンも行けばそれなりに楽しい。でも、それだけだ。合コンで知り合った彼女達とは何故か長続きがしない。「完璧過ぎて疲れる」「私には勿体ない」「イメージと違う」「私より仕事の方が好きなんでしょ」と、あたかも俺が全て悪いというような理由で、彼女達は去っていく。
俺も今年で三十路だ。
合コンで知り合った人とではなく、出会ってゆっくりと関係を築きながら、俺本人をきちんと好きになってくれる人と恋をしてみたい。そう思っていた。
だから合コンの類いは、ただの時間の無駄使いのように感じ、どうしても乗り気が起きないのだ。
まあ、今回は仕方無いか。石井の為だ。
同期であり親友でもある彼に、頭を下げられれば最終的には頷かざるを得ない。つくづく親友に甘い性格をどうにかしないとなと思いつつも、この癖のような性格は一生直らないだろう。
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