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朝、ぼくは祖母の作る朝ご飯を食べた後にすぐにお姉さんのいる林へと向かう。祖母は疑問に思いながら「どこに行くの?」と尋ねてくるが、ぼくはお姉さんに会っていることは秘密にしておきたいために「かぶと狩り」「くわがた狩り」などと適当に誤魔化しておいた。家を出る時に網も虫かごも持っていかずに手ぶらなのだが、祖母が何の疑いも持たずに送り出してくれるのは助かる。
ぼくは毎朝の涼しい時間、お姉さんと会う。ぼくの話す都会の他愛ない話(ぼくからすれば下らない)でもお姉さんは笑顔で聞いてくれる。ぼくのことを話していくうちにお姉さんも自分のことを話してくれるようになっていた。体が弱いのは見ての通り、暑くなる日の日中に外を歩けば命を危険に晒すぐらいに弱いとのことだった。何でも生まれつきの心臓の弱さが原因らしい。
そんな話をしていると、お姉さんは唐突に言い出した。
「心臓、触っていいかな?」
いきなりのことにぼくは戸惑ったが、減るものでもないので胸を差し出した。お姉さんはぼくの心臓の上に手を当てる。服の上から触れられているだけで分かるお姉さんの手の柔らかさ、そこから伸びる白魚のような手は多少の肉こそついているが細いとしか言いようがない、同級生女子の手が丸太に思えてくるぐらいだ。
お姉さんの手がぼくの胸が当てられている。それだけでぼくはこの前以上に興奮した。どくん どくんとゆっくりだった鼓動がどくどくどくどくと見る見るうちに早くなって行く。
それと同時にお姉さんはぼくの心臓から手を離した。
「いきなりどうしたの? 心臓触りたいなんて、心音マニア?」
「あたしのこと、知ってほしかったから」
すると、お姉さんはぼくの右手を取って自分の胸の上へとやった。いきなり自分のおっぱいを触らせるなんてとんでもない女だ。女子と一緒に遊ぶことすらも恥ずかしいと思っている小学生男子にとっては刺激の強いものだった。ぼくは引き剥がそうとするのだが、お姉さんは両手の指先が白くなるほどに力強くぼくの手を握っている、振りほどくことも可能ではあったが、ぼくの手が触れるおっぱいの先にある心臓の鼓動を受けた瞬間にそれが出来なくなってしまったのだ。
ど、くん ど、くん ど、くん…… やけに鼓動がスローテンポなのだ。理科の時間でやった「しんぞうのうごき」で聞いた人間の心音とは明らかに違う。ぼくが明らかに変だと思って訝しげな顔をしていると、お姉さんは首を傾けてぼくに向かってニッコリと微笑んだ。
「遅いでしょ? これがあたしの普段の心臓の動き。でもね、激しい運動したり、暑い中歩いていると、どどどどどどどどどどどーってスッゴク早くなるの。一分間で120回以上だったかな?」
「ええーっ! 一分で120回って、一秒に二回とかじゃん」
「もう、数え切れないぐらい死にかけてるかな? 酷いと散歩の途中で急に気温が上がって目の前が真っ白になって倒れたこともあったかなあ。スッゴク辛いよ、体は熱いのに、中身から血がすぅーって引いてくように氷のように冷たくなるの。心臓なんか激しく握られてるみたい」
「そんな! もう外に出ない方が」
「それでも、お日様の光は浴びたいかなー。一日中お部屋の蛍光灯の光だと気が滅入るわ。だから、涼しいうちしか外に出られないんだ」
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