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その時、村内放送の時報が鳴った。時間は朝の十一時を過ぎて暑くなる頃合いだった。
「あ、ゴメン。そろそろ帰らないとお婆ちゃんに怒られちゃう」
「あら、せっかく今日は涼しい場所に来たんだから長くお話出来ると思ったのに、残念」
「じゃ、ぼく帰るね。本は読み終わったら返すよ」
「うん、またあしたね」
ぼくはニッコリと微笑むお姉さんの笑顔に後ろ髪を引かれる思いをしながら病院を後にした。こう思ったのは「長くお話出来ると思っていたのに」言ってくれたからだ。何よりも、ぼくはこれまで毎朝会ってきた頃からの積み重ねもありお姉さんのことが好きになっていたのが大きいだろう。
ぼくは帰ってすぐに源氏物語を読み耽った。やはり子供には難しい内容だった。お姉さんが言っていた空蝉だが「光源氏が空蝉と言う女性の袿袴を盗んで愛の歌を詠む(告白)も、歌を貰った空蝉自身は光源氏との身分の違いから、愛は受けられないと拒絶する」雑にまとめるとこんな内容だった。ぼくはそれを読書感想文風に愛があれば身分は関係ないと言った綺麗事の美辞麗句で飾り立てて原稿用紙を埋めた。
当時の私は本当に純粋だった……
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