蝉時雨の中で

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 翌朝、読書感想文を書き終えたことで借りた源氏物語を返そうといつものようにお姉さんの元に行く準備を進めていた。しかし、外は生憎の雨…… 傘を差せばどうにかなるような雨ではなく土砂降りの雨だった。お婆ちゃんも「土砂崩れとかくるといかんから家でのんびりしておき」と、外に出してくれない。  雨は三日三晩降り続いた…… 他に娯楽のない現状、ぼくは仕方がないので源氏物語を全て読み終える。読み終えてみれば女性の繊細な気持ちが表現出来ていて、世界最古の小説の名は伊達じゃないと言う印象を受けた。  四日目になって、蒼穹は青く輝き日本晴れの様相を見せた。その日、お婆ちゃんは娯楽もなく退屈そうにしていたぼくに気を使ってか車を出して隣町に連れて行ってくれた。隣町には小さいながらも遊園地や動物園もあり思い出を作るには十分だった。その日の夜、母より「明日迎えに来る」と電話連絡が入った。この田舎暮らしも楽しかったなぁと感慨に耽っていると、机の上に乗せられた源氏物語が目に入った。 「そう言えば借りたままだったな」 さすがにお姉さんから借りパクはまずい。ぼくは明日の朝一番でお姉さんの元へと行き、本を返すことにした。
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