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攻防
古い布団を紐できつく縛りゴミ袋に入れると、瑞希はさっと立ち上がって玄関先でぺこりと頭を下げた。
「では本当に、色々ありがとうございました。古い布団の処分はお任せして申し訳ないですが……私はこれでお暇しますね」
(二日間でかなりの出費になったな……。ま、いいか。ボーナスや残業代もあるし、気分爽快だし。それより大失態の埋め合わせができて、本当によかった。危うく人生の汚点になるところだったわ)
顔に一切出さずに胸算用する瑞希を、風間は呆気にとられたように見つめた。
「こちらこそ、こんなすごい布団を……。あ、よかったらこれから飯でもどうですか?」
何気なく誘われて一瞬心が揺らぐも、すぐ瑞希は首を振った。
「いえ……だって風間さん、昨夜ほとんど寝てないんじゃないですか? それに今日も夜、お仕事ですよね? 土日休みじゃないでしょう」
それにいくら風間が好感の持てる人物であっても、性風俗を生業とする人なのだ。自分とは住む世界が違う。これ以上親しくなる必要もないだろう。そんな判断もあっての答えだった。
「ああ。それこそ、よくあることですから大丈夫ですよ」
「私が気になるから、ゆっくり休んでください。睡眠の質と量は仕事効率に比例しますから。油断大敵ですよ」
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