いくな。

　＊＊＊

　後になって、私が聞いた話。
　あのお祭り会場では、十数年前に大きな事故が起きていたらしいのだ。混雑で、人々が狭い鉄橋に殺到。花火を見に河川敷と屋台街に向かう人と、駅の方へ帰る人の流れがぶつかりあい、完全に身動きが取れなくなってしまったのだという。
　そこで、ぎゅうぎゅうの混雑の中一人が転んで――盛大なドミノ倒しが起きた。
　多数の死傷者を出したその事故の反省を受けて、その橋は取り壊され、別の場所に新たにもっと大きな橋が架けられることとなったのだそうだ。事故を起こして取り壊されたのは、Ｂ川橋。私達は、存在するはずのない橋を見ていたということになる。
　死んだ人間の中には、高校生のカップルもいたそうだ。

――あのカップル。……あの橋を渡ったら死ぬってわかってたから……だから忠告してくれてたんだ。それなのに、私達は……！

　あの恐ろしい夏の夜のことを、私は一生忘れることはできないだろう。
　真夏の夜の、神隠し。
　奈留美を含め、何十人もの人々が忽然と姿を消し――今なお、戻ってくる気配はない。