ひと夏の恋

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 恋をした。夏の輝く君に。  少女の時から追いかけて、追いかけて。  けれど、大輪の花を咲かせ盛りを迎えた時、動けなくなった。君を追えなくなった。  たくさんの求愛を受け、甘んじるしかない一生。  日に一回、振り向いてくれる君に励まされ、身を結び、子を残すの。  最後に君の元に行ける事を祈りながら。 「これが、ひと夏の恋の物語」 「絶対に叶わない恋をしてるじゃん」 「なんか切ない」  子供達が眼前に拡がる向日葵畑を眺めながらおばあちゃんの話を聞いていた。 「向日葵って、ずっと太陽を追いかけてると思ってた」 「みんなそう思っているけれど、向日葵がお日様を追いかけるのは蕾の間だけなの。花を咲かせたらもう動けない」 「そうなんだ……」  輝く太陽の光を受けて、向日葵は鮮やかな黄色で咲き競う。 「あの子たち皆、恋のライバルに見えてきた」 「ひと夏の一生を終えた向日葵さんはきっと恋する君の元に行くんだよ」 「その子も、孫も、その先ずっと、叶わぬ恋をするんだね」  この夏も、向日葵達は切ない恋に身を焦がす。
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