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「お宅は、誰を連れてる?」
夕刻、迎え火を焚く老婆に話しかけられた。
今私は一人。
「誰も?」
目の細い老婆は瞳が見えない。眼を瞑っているよう。
「おるじゃろ、そこに」
私の後ろを指差していた。振り向いたが、誰もいない。
「いないよ」
ケケケと笑う老婆に背中がヒヤッと冷たくなった。
蝉時雨か耳鳴りか。頭の中にダイレクトに響く音に耳を塞いだ。
いや、これは川の音だ。
あれは、遠い夏の出来事。
子供たちの遊び場だった渓流は台風の直後で増水し、いつもと違う顔を見せていた。
恐ろしい音を立てて渦巻くように流れる水に、落ちたのだ。
仲良しだったーー誰?
思い出せない。あの夏毎日遊んでいたのに。
何処かから来た知らない子だった。
一緒に遊んでいてーー?
「隠しても、消すのは不可能じゃよ」
腰の曲がった死神のような老婆は不気味に笑いながら家の中に入って行った。
スマートフォンが鳴り、確認すると妹だった。
安堵して取ると。
「そこに誰かいるよ」
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