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私は時限爆弾を抱えている。
「私の頭の中にはカウントダウンの音が聞こえる」と言うと友人達は「幻聴」と笑うけれど。
決まって、『今くる⁈』というタイミングでその音は始まる。しかも、かなり正確に爆発の時は訪れる。
今日も、最高に絶妙なタイミングであと5分のカウントダウンが始まった。
新型ウィルス感染禍。人が集まるイベントは軒並み中止に追い込まれ、音楽業界はもろに煽りを食らった。
聴いてもらってナンボのフリーのプレイヤーは披露する機会すら失った。
ドン底の中で仲間達は、文明の利器を最大限利用する演奏配信を始めた。ライブには敵わないけれど、皆、自分達の生存証明を懸けている。
スタジオが借りられない中、やるのは自宅。思い立った時がやる時だ、とピアニストとして生きる為に私も始めた。
誇りを胸に、自宅の一室をステージに変える。
今日は、組曲全曲、全神経集中で5曲中4曲まで奇跡的な出来で終了。
さあ、終曲、と鍵盤に指を置いた瞬間だった。
カチッ。
時限爆弾のスイッチが入った。勿論頭の中で。
終曲は4分54秒。あと5分!
大丈夫だ、落ち着け。
深呼吸して、弾き始めた。
集中していても、カチカチという音が追ってくる。
お願い、あと1フレーズーー、
「ォ、ォギャアアッ」
母の体内時限爆弾時計は今日も正確だった。
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