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8月27日(日)
Kから再び連絡が来たのは、それから2日後の日曜日だった。
僕は映画館でオーストラリアの先住民族の記録映像を観ているところだった。
彼らの一部は原始的な生活を自ら選び、テレビも冷蔵庫もない荒野で、狩りや木の実を取ったりして生活していた。
彼らは森の中の開けた一角に、木と石で自然の精霊を形どった像をつくっていた。
映画では像にモザイクが施され、その顔や形を見ることはできなかったが。
通知に気づいてスマホを見ると「謎が解けそうだ きれいな状態のビラが欲しい 手に入れられないか? 俺は別のやり方を試す」とメッセージが届いている。
僕は一度トイレにたち、Kに通話をかける。
Kはすぐに「おう」と通話に出た。
「なにかわかったのか?」
「いやまだだ。でもなにかしら繋がるはずだ」
「文章のことか?」
「いや、とにかくきれいなビラがいるんだよ。なくてもいけるかもしれないが……手に入らないか?」
「無理だろ……その辺に都合よくビラが撒かれれば別だけど…でも所持がバレたら捕まるんだぞ?ほんとにわかってるか?」
少しのあいだ虚をついてしまったような沈黙があった。
Kは沈んだ声で続けた。
「そうだな……ごめん。俺ひとりでやれることやってみるよ。ごめんな巻き込んじゃって、仕事がんばれよ」
言い終わるとKは返事も待たずに通話を切った。
僕はKに後ろめたさを感じながらも、犯罪に手を貸すのを断っただけだ、なにも間違ったことはしていないとも感じていた。
ただ胸の重さは消えず、Kがテロに巻き込まれてしまうんじゃないかという心配もあり、どんよりとした気持ちでトイレを出た。
扉を開けてスクリーンを覗くと、顔に独特のメイクをした先住民たちが集団で狩りにでかけるところだった。
ふと、メイクにはモザイクをかけなくていいのだろうかと思った。職業病だろうか、どこからがフィクションになるのか神経質に考えてしまう。
なんとなく息苦しくなった僕は、席に戻らずそのまま映画館を出る。
外へ出ると、見慣れた都市の街並みがとても殺風景に見えた。
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