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9月1日(金)
月が変わったが、あれ以降Kからの連絡はない。
”テロリストの撒いたビラ”をコピーして高値で売っていた学生が逮捕されたというニュースがあった。
いくらで何枚売ったのかはわからないが、百万円以上の利益を得ていたという。
所持だけでなく複製と頒布の罪にあたるということで、学生には重い処分がくだった。
テロリストの活動頻度も増えた。都心だけでなく人の少ない郊外でもときおりビラが撒かれるようになった。
毎回違う着ぐるみや変装で現れることもあり、警察は手がかりを掴みきれていないようだ。
ただビラの回収には熱心で、犯行現場に居合わせた通行人全員の持ち物検査を実施するなどして、執拗なまでに取り締まり、その回収数を公表している。
Kはしわのないビラを手に入れられたのだろうか。
僕はKの身を案じるとともに、ビラに込められたメッセージを知りたいという気持ちが日に日に高まっていくのも感じていた。
しかし僕はKほど熱心にそれを追い求めることはできない。少なくとも違法行為をしてまで知ろうとは思えない。
それにもし出版社に知られたらどうなるだろうか。
すでにKのビラの所持を見過ごしたことで、共犯者に近い立場になってしまっている。
これ以上首を突っ込むわけにはいかない。
そう決心し僕は、Kに連絡を取ることはせず、ぴりついた職場での校閲作業に没頭していた。
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