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それでもときどき、修正の線を引くときにKの顔が頭に浮かんだ。
赤い線を引くたびに、Kの首を少しずつ締めているような気がして、心が重くなることもあった。
そんなとき僕は、50年前の人々の生活を想像した。
彼らは欲しいときにいくらでもフィクションを手にすることができたという。
でもどうして彼らはそんなものを求めたんだろう。
どうしてそんなにたくさんのフィクションが必要だったんだろうか。
この時代に生まれた僕にはわからないことなのかもしれない。
事実よりほかに、生きるのに必要なものがあるなんて、僕には考えられなかった。
Kはどうしてフィクションを求めるようになってしまったんだろう。
僕らが生まれたときにはもう、フィクションは世の中から消えていた。
Kはどこかで偶然フィクションを手に入れてしまったのだろうか。
それともなにか別のきっかけがあったのだろうか……。
小学校のときにKが描いた樹の絵を思い出していた。
Kの描いた樹にだけあらわれた、実在しないカブトムシ。
あのカブトムシはどこからきたのだろう。
どうしてKのもとにだけあらわれてしまったのだろう。
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