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最近、ここ1ヶ月ほどだが、奇妙なニュースが話題になっている。
街中で、着ぐるみをきた男とも女ともわからない人物が、フィクションの描かれたビラを撒き、警察がくる前にさっと逃げ去ってしまうという話だ。
警視庁はこれを「反社会的な思想の人物によるテロの一種」だと断定し、ビラは即座に回収され、持ち帰ろうとすればテロに加担する者として逮捕された。
この”テロ”は何度も繰り返され、これまでに回収されたビラの数は1万枚以上だという。
出版社内はこの話題で持ち切りだ。
中には「俺たちの仕事を侮辱してる」とブチギレている人もいた。
僕は怒りこそ感じないものの、気味が悪いなとは思っていた。
なんのためにそんなことをするんだろう。
事実じゃないビラをばら撒いてなんの意味があるんだろう。
警察も警察で、どうして1ヶ月も経っているのに捕まえられないんだろう。
それよりも僕は事件のせいで日に日に高まっていく職場の緊張感の方が心配だった。
仕事柄、どうしてもフィクションを扱った事件には敏感になってしまう。
せめてそれ以外の話題を報じてくれればいいものの、ニュースはネタがないらしく、増えるビラの回収数が毎日のように報道される。
夕方頃に、友人のKからメッセージが届いた。
「いいツマミがあるぞ ウチこい」
ちょうど今日は金曜日。仕事帰りに寄ろうと決めて、”OK”と返信する。
このKは、小学校の絵の授業で樹にカブトムシの絵を描き足して怒られていた男だ。
それから中学・高校と僕と同じところに進学したが、高校の途中で絵の専門学校に転入していった。
だがそこもすぐに辞めたらしく、いまなにをして生計を立てているのかは僕にもわからない。
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